第33回労務相談室 混沌とした最低賃金
第33回労務相談室 混沌とした最低賃金
ジャカルタ州最低賃金設定が混沌とした状況に入ってしまいました。今後どうなるのか全く先が見えない状況ではありますが、ジャカルタ州の最低賃金設定を見ながら、最低賃金のおさらいをしてみたいと思います。
【統計局データによる算出】
2020 年法律第 11 号(通称雇用創出オムニバス法)と 2021 年政令第 36 号により、最低賃金設定規定は大きく変わりました。発効日と設定期限が定められたことにより、これまで何度でも改定できた最低賃金は年 1 回のみ最低賃金額の変更ができるようになりました。また県/市最低賃金 を設定することができる条件も定められ、セクター別最低賃金は州レベルでも、県/市レベルでも廃止されました。そして改定のための計算式が詳細に定められ、そのデータは統計局から出されたデータを用いて算出されますので、これまで注目されていた政労使からなる賃金委員会の機能は無意味になってしまいました。法規を遵守すればインドネシア全国の最低賃金額は統計局が計算できるほどの整然とした規定になっていますが、実際は法規設定とは異なる結果となっています。
【法規設定はいずこへ】
ではジャカルタ州最低賃金設定を例にいかに法規による設定が守られていないかを見てみましょう。まず政労使からなる賃金委員会は 2021 年 11 月 15 日に 3.57%増の月額 4,573,845 ルピアを州知事に勧告しました。この値は法規の計算式に基づいていません。けれども州知事決定として最初 2021 年 11 月 21 日に発表されたのは賃金委員会からの勧告に基づかず、法規の計算値に沿った前年比 0.85%増の月額 4,453,935 ルピアという決定でした。州最低賃金は翌年 1 月 1 日施 行のものを遅くとも 11 月 21 日までに設定する義務が定められていますので、この 1 回目の設定は法に沿っており、州知事は法規にしたがわない賃金委員会からの勧告ではなく、法規を優先したのです。けれども思いがけないこの小さな数字の最低賃金額に労働者側は大抗議を始めました。そして2021 年 12 月 16 日付の知事決定で 5.11%増の月額 4,641,854 ルピアに改定しました。設定期日は期限切れ、計算方法は法規に沿っていないということで今度は経営者側が大抗 議し、この決定の合法性を問うため違憲申請を行いました。そして今回違憲判決が出ました。 不思議なことに違憲裁判所は単に州知事決定を無効にするだけではなく、2021 年 11 月 15 日に 賃金委員会が勧告した額にしたがった 3.57%増の月額 4,573,845 ルピアで州知事決定を発行するよう命じました。発行された法規が合法か違憲かを判断する機関から、一地方の最低賃金額を命じたのですから、これは大きな法規違反になるのです。そんな中でジャカルタ州知事は上訴することを決定します。今後最高裁判所でこの違憲判決が争われることになりますが、時すでに 8 月。そして 11 月 20 日には 2023 年 1 月 1 日に施行される最低賃金額を決定することになります。時間切れで意味がなくなることを狙っているのか、動向を静観するしかありません。
関連法規:2020 年法律第 11 号 UU-11/2020、2021 年政令第 36 号 PP-36/2021