第32回労務相談室 賃金スケールの改定
第32回労務相談室 賃金スケールの改定
1 月から新最低賃金が適用され、セクター別賃金がなくなったことやオムニバス法で定められた計算方法での算出による、適用すべき最低賃金の据え置きが多くの市/県で発生しました。年次賃金調整は各社の能力や方針に基づき、これまでとは異なる対応となったと言えるでしょう。 そんな中で各社の最低賃金額が変更になることで賃金スケールを改定する必要が出てきています。今回は賃金スケール改定に伴う注意点に焦点を当ててみましょう。
【賃金スケール見直しとその周知】
各社において取締役決定書で賃金スケールを設定する義務は現行法規で定められています。ど んな賃金スケールを設定しなければならないのかは定められておらず、各社に任せられていますが、役職や階級ごとの最低賃金額と最高賃金額で定められた表やグラフになっていることが多いようです。その金額は年次賃金調整ごとに実際の賃金額をもとに定められている場合もあれば、何らかの計算式を設定して算出している場合もあります。いずれにしても各社で適用する最低賃金額が起算になっている場合が多く、年次賃金調整ごとに賃金スケールが変わってくることになります。改定した場合は毎回取締役決定書で再度定めなければなりません。 また賃金スケールは全社員に周知する義務が定められています。ですから改定した場合は再度周知しなければなりません。とはいえ全社員に全賃金スケール内容を周知するのではなく、当該社員が含まれる部分のみを周知することが義務付けられていますので、改定した部分に含まれる社員にのみ周知するということになります。年次賃金調整で各社最低賃金額が全く変わらないということが少ない現在、多くの会社では少なくとも最も最低賃金額に近いランクに所属 する社員には毎年周知するということになり、これは実は一大行事となり得ます。一方で役職 や賃金額が上の社員の賃金スケールは最低賃金額が改定されても影響を受けないということもあります。その場合は再度周知する必要はありません。
【周知の証拠】
最も頭が痛いのは周知したことを証明する証拠です。労働地方事務局からの査察が入った場合、この賃金スケールを策定している証拠と周知した証拠の提示を求められることが多々あります。比較的きちんと遵守されておらず、査察側の指摘事項として出てきやすいからです。口頭での「伝えました」では証拠になりませんので、必ず何らかの書面が必要です。メールで当該者に送信したり、賃金明細書に記載したりしていればその写しを、口頭で伝えていれば「説 明を受けました」というサインを取っておくことをお勧めいたします。賃金額はセンシティブな問題です。もちろん社外秘ですので他社に漏れることも心配ですから書面を作成することを躊躇なさるかと思います。その場合にはスケールを提示し、口頭で説明 し、説明を受けたというサインリストを作っておくと便利です。ただこの対象者が何百人にもなると時間がかかりますので工夫が必要になります。
関連法規:2003 年法律第 13 号第 92 条 UU-13/2003、2021 年政令第 36 号第 20~22 条 PP- 36/2021