第45回労務相談室 現地採用者雇用契約書(2)
第45回労務相談室 現地採用者雇用契約書(2)
前回は雇用契約の前提と契約終了に伴う支払いについてご説明しました。今回は報酬に係る義務や権利、それに伴う雇用契約の改定について取り上げます。
【報酬設定】
賃金額には規定はありませんが、原則としてルピアで設定する義務はあります。「海外から派遣された外国人労働者」はルピア設定の例外と認められているので、出向者がドル設定だから現地採用の社員も、となると問題になる場合もあります。外貨で賃金設定をされる場合は本社からの派遣であることを証明する書類を作成する等監査等で指摘された場合に提示できる証拠を持っておくことをお勧めいたします。
また賃金設定をグロス(税込)で行うのか、ネット(手取)で行うのかということも注意点になります。2023 年財務省規則第 66 号で現物支給に対する課税の規定が定められましたが、会社が所得税を負担した場合の所得税手当は所得税の課税対象となっています。つまりネットで賃金を設定すると会社が負担した所得税にまた所得税が科せられ、それを会社が負担すると、というエンドレスの課税が発生するため、ネットでの賃金設定はできなくなってしまっています。本件は現地採用社員に限りませんが、賃金はグロスもしくはグロスアップでの設定をするしかないことになります。グロスとは個人所得税を賃金から控除する設定です。一方グロスアップとは実際に社員が受け取る金額を契約書で合意しますが、その金額をもとに税込み金額を計算し、それを社員の所得として会社が支払うやり方です。グロス同様グロスアップした合計から社員の個人所得税分を控除しますので、社員が受け取る金額はグロスアップ前の金額となります。
これまでネットで設定していた会社の多くは就業規則/労働協約に「所得税は会社の負担となる」と記載されていますので、雇用契約書に「賃金はグロス/グロス・アップで設定する」と記載して、法規にしたがった対応を行うことをお勧めいたします。就業規則/労働協約と異なる内容を雇用契約書で合意した場合は違反がない限り雇用契約書が優先されます。
【賞与と宗教大祭手当】
賞与は法的規定がありませんので会社の規定にしたがい支給を検討することになります。一方で宗教大祭手当はインドネシア人社員のみに支給が義務付けられている、もしくは社員の権利なので雇用契約書で権利を放棄することができるという理解をされているケースが多くありますが、2021 年政令第 35 号第 9 条第 1 項に「宗教大祭手当は経営者によって労働者に支給されなければならない Tunjangan hari raya keagamaan wajib diberikan oleh Pengusaha kepada Pekerja/Buruh」となっていますので、会社の義務であり、社員が支給不要と合意しても違反となりますので、必ず支給しましょう。
関連法規:2023 年財務大臣令第 66 号 Per-66/MEN/2023、2021 年政令第 35 号 PP-35/2021