第40回労務相談室 賃金調整遡及の影響
第40回労務相談室 賃金調整遡及の影響
雇用創出オムニバス法でセクター別最低賃金の設定がなくなり、その影響で各社が適用すべき最低賃金額が上がらないという状況が出ています。とはいえ社員側は昇給なしは勘弁してくれと懇願してきますし、では何に基づいて賃金調整するのか、周囲を見ながらと考えている間に 決定すべき時期を過ぎてしまうということがままあります。たとえば毎年 1月から調整後の新賃金を適用するところ、やっと決定したのが4月末だったので、年次賃金調整を行う時期として定めている 1月からの差額も4月にまとめて支給する、という処理をよく見ます。月額賃金の差額はわかっていますが、その影響はどこまで検討すべきでしょうか。
【時間外労働賃金、社会保障、所得税、宗教大祭手当への影響】
まず時間外労働賃金は月額定賃金Upah Tetapに基づき計算しますので、月額定賃金額が変更になれば再計算が必要になります。時間外労働時間によって異なりますので、各自の再計算が必要になり、準備が必要です。
一方社会保障保険料の基本は規定上実際に支給した賃金ということになっているのですが、現状は月額定賃金に基づいて計算されている会社が大多数のようです。これに関する社会保障会社からの指導などは現在のところ行われていない上、すでに支払った保険料の訂正というシス テムを社会保障がほぼ持ち合わせていない(マニュアル作業になる)ことを鑑み、年次賃金調整決定後から保険料計算に適用させることでも大きな問題にはならないかと思います。
また所得税は実際の所得を元に年次確定申告で対応できますので、すでに納税した金額の修正ということではなく対応が可能です。
宗教大祭手当Tunjangan Hari Raya/THRですが、こちらも月額定賃金に基づき計算しますので、是正後の金額に基づき計算することになり、すでに支給済であれば差額の支給が必要です。
【退職後の社員に対する差額支給】
上記の例のように4月に決定したけれど、3月にすでに退職している社員も本当は 1月から3月分の賃金の差額が発生します。宗教大祭 1カ月前以降に退職している場合は宗教大祭手当にも差額が発生します。こちらの支給をどうするか、というのは微妙な問題です。年次昇給を定めた法規はありません。定期的に見直すことは定められていますが、見直すことと昇給することは必ずしも同じではありません。また最低賃金額未満の賃金を支給することは禁じられていますが、最低賃金以上であれば基本的に違反はありません。ですから年次賃金調整の対象者を決定時に在籍している社員に限定して遡及するという形を取れば退職者に差額を支給する義務がなくなります。ただし最低賃金額を下回った賃金の支給がおこなわれていた場合は、差額を会社は支給しておくべきです。社員の問題というよりは会社の違反となります。最低賃金額を下回った賃金支給を避けるため、新しい最低賃金が適用になった 1月1日より、新最低賃金を満たすところまでだけ昇給する会社は多いです。会社によっては最低賃金昇給額分だけ全社員にまずベースアップのように追加される会社もあります。
種々の理由により新賃金額の決定が遅れることはありますが、できるだけ間違いがないよう、計算漏れがないよう準備を行うことをお勧めいたします。